取手物語〜取手より愛をこめて

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zoom RSS 「犬神家の一族」 野々宮珠世の確信と決意・・・

<<   作成日時 : 2012/02/18 03:38   >>

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「犬神家の一族」で、何故野々宮珠世は犬神総本家に平然と暮らしていられたのか・・・・。



これに関しては過去の記事でも記述しているが、


  ※「犬神家の一族」関連の過去記事

    
      『犬神佐兵衛翁の怨念 〜「犬神家の一族」』

      『『血と狂気に彩られた至上の愛−』〜「犬神家の一族」・・・

      『「犬神家の一族」に見る金田一耕助の真実

      『「犬神家の一族」(2006年版) 贅沢なリメイク版・・・

      『市川崑の金田一耕助 〜「犬神家の一族」(2006) 天使のような風来坊

      『「犬神家の一族」〜犬神佐兵衛翁の想念

      『犬神佐兵衛翁、遺言状にこめた真実の愛 〜「犬神家の一族」』

      『遺言状にこめた至上の愛 衝撃をうけたあるセリフの存在  「犬神家の一族」(2006年版)』



やはり、珠世は佐兵衛翁の自分への「愛」を、想いを分かっていたのであろう。


市川版の映画を元に話をすすめるのだが、
野々宮珠世、彼女は犬神家に関連の深い、いや、犬神佐兵衛翁の恩人である那須神社の神官・野々宮大弐の孫である。たしかに佐兵衛の野々宮大弐、そしてその遺族に対する報恩の念は度がすぎるほどであった。だが、恩人ではあるが、犬神家と野々宮家は法律上は何の関係もない、親戚でも何でもない赤の他人である。
つまり、珠世は犬神家と血のつながりは全くない同居人なのである。
いかに佐兵衛翁の大恩人の孫であろうとも、当然佐兵衛翁が招いたのであろうが、何故珠世を犬神本家へ同居させたのか。
そして珠世、彼女は自立した聡明な女性である。彼女は両親が幼くして他界した為、二十歳前に恩人の孫として丁重な客分扱いで犬神の家に招かれた。その彼女が成人した後もなぜ平然と犬神本家に同居しつづけたのか。



若かりし頃、犬神佐兵衛は、野々宮大弐の妻と関係をもった。そしてその妻を本気で愛してまった。これが佐兵衛が生涯でただひとり、愛情をそそいだ、愛した女・野々宮春世である。そして、夫である大弐もその関係を知り、しかも黙認していた。しかも大弐と佐兵衛は男色関係にあった。それが大弐が佐兵衛を寵愛したもうひとつの理由でもあった。元来生真面目で誠実であった佐兵衛はその歪んだ奇妙な関係・状況に悩み苦しんだ・・・

女性に対して性的不能であった野々宮大弐。そのために、春世と佐兵衛はいつしか男女の関係になった。そして二人とも、本気で互いを愛するようになってしまった。やがてそれは大弐の知ることとなるが、大弐は二人を許し、関係を続けさせた。大弐には若き処女妻・春世への贖罪の念があったゆえに。そして、特に、佐兵衛の愛は深く、本物であった。だが、二人の愛を知っても夫の大弐は妻とは体裁を気にすることもあり断固別れず佐兵衛に春世を渡さなかった。
佐兵衛は、恩人である大弐を心から尊敬し、そして春世を心から愛した。
やがて、佐兵衛と春世の間に祝子という子供ができた。だが、当然ながらその子は野々宮家の子として育てられた。佐兵衛の鬱積した想いは、ゆがんだ感情を生み、事業拡大と3人の妾にはき出された。やがて何の愛情もない欲のはけ口であるしかない妾にそれぞれ娘ができた。これが犬神三姉妹である。佐兵衛は春世への愛を貫く為に生涯妻を持たないと決めた。それが妾を3人した理由であった。彼女たちが互いに嫉妬や葛藤する様を熟視し、軽蔑し続けることで、愛情がわかないようにしたのだ。だが、娘達は当然ながら犬神の娘として家にいれ育てた。それでも、佐兵衛の鬱積した想いは一向にはれなかった。それどころか、より大きくなり、やがてそれはゆがんだ感情から、恨みに変わった・・・・。

事業が成功拡大し犬神の家が裕福になればなるほど、その恨みは大きくなっていった。何故なら、自分が生涯でただ一人愛した女・野々宮春世との間に生まれた祝子。彼女こそが犬神佐兵衛の長女となるのである。だが、その祝子はしがない神社の神官の娘として贅沢もできずにほそぼそと暮らしている。それにひきかえ、性のはけ口にすぎなかった女共の娘は犬神の家で何の苦労もせずに裕福に暮らしている。佐兵衛の妾親子への、つまり三姉妹への怨念は大きくなっていった。


やがて、佐兵衛翁はある想いをいだく。
愛する春世との子は、犬神の家に、犬神一族には入れることはできなかった。しかるにその娘の子、つまり春世との間の孫は、つまり春世の血をひく孫を犬神の一族に迎え入れようとしたのである。もちろん、表だっては無理。だが、自分の恩人の孫としてそうしようと想った。そしてその後に・・・・
だが、春世との娘・祝子は婿をとったのだがなかなか子供ができなかった。佐兵衛翁はあせった。このままでは春世の血を、春世と自分の血を継ぐ者を犬神の一族とすることができない。そこで50歳を過ぎた佐兵衛翁はあることを調べた。
生涯でただ一人愛した女・野々宮春世の血縁を調べたのである。直接でなくともいい、薄くともいい、とにかく佐兵衛翁は春世の血を、自分と春世の血を、その血を継ぐ者を犬神家の一族としたかったのである。ソレは正に異常な程の想い、怨念さえも押さえ込む想念であった。そして、血縁がひとりだけいた。野々宮春世の唯一の生き残りの血縁。それが犬神の工場で女工として働く青沼菊乃だったのである。これは市川版の映画では描かれていていない点である。原作では佐兵衛翁は一時菊乃を正妻に迎え入れようとした記述まである。故に私は最初の内は佐兵衛翁の愛の深さ、執念ともいえる怨念をも押さえ込んだこの壮大なる想念に気がつかなかった・・・・。
市川版では至上の愛から転じるゆがんだ感情により、佐兵衛翁が様々な罪深き行動をとったとし、青沼親子もその犠牲となったと描いている・・・・。

佐兵衛翁は菊乃を愛人とし、菊乃との間に子をもうけた。それが青沼静馬である。そして、佐兵衛翁はこの青沼親子に、犬神家の財産と全事業の相続権を意味する犬神家の三種の家宝・よき(斧)、琴、菊を渡してしまう。だが、一切の真実を知らない犬神の三姉妹、自分たち妾親子には何の愛情もそそがない父が、よりによって赤の他人で、しかも自社工場の女工を愛し、正妻にむかえようとしたり、あげくには相続権までも譲るとは、なんと狂ったことかと怒り心頭に発し、力ずくで家宝を取り戻した。青沼親子にひどい仕打ちをして・・・・。
だが、後に佐兵衛翁には、これが功を奏す。

のちに祝子に子供ができたのである。つまり、佐兵衛翁が生涯でただ一人愛した女性・野々宮春世の血を、自分と春世の血をうけつぐ本当の孫、それが野々宮珠世なのである。

当然ながら、佐兵衛翁はその想念をはたすべく、祝子夫婦が共に早く他界した後、恩人の孫として幼き珠世を犬神本家に招き入れ、犬神の家で育てた。愛情をたっぷり注いで・・・。


こうして、野々宮珠世は、その素性を誰にも知られることなく、佐兵衛翁の恩人である野々宮家の孫として、幼き頃より犬神総本家で育てられた。佐兵衛の寵愛をうけ、丁重な客分扱いで。


そしてその犬神本家には当然、長女松子が婿をとり住んでいた。妹達もそれぞれ婿をとり、次女婿は東京支店長として一家は東京へ、そして三女婿は神戸支店長として一家は神戸に住んでいた。
本家には、幼い珠世と松子の息子・佐清が同居していた。

ここで、一般に孫はかわいいものである。その親がどうであれ。佐兵衛翁はどうであったのであろうか。彼は、春世との間の娘・祝子が野々宮家の子としてつつましく育てたてたとこで妾親子を、つまり犬神三姉妹を恨んでいた。その子は、つまり孫は・・・・。
佐兵衛翁も例外でなかったように想う。だが、珠世と比べた場合には、答えは明白・・・・・・。

中でも、幼き頃より同居する佐清は他の孫よりもかわいかったのではないだろうか。ましてや、端正で、性格も真面目で誠実、若き頃の自分に似ていれば尚のこと・・・。そして、なによりも、珠世が想いをよせていれば更に・・・。

珠世が佐兵衛翁より懐中時計をもらう。そして、“これは男ものだから、大人になっては身につけられないが、そうだ、お前のお婿さんになる人にあげるといいよ”と言った。これは原作そして、市川版のリメイクで台詞にもある。さらに原作には、珠世はそのもらった懐中時計を子供ゆえにしょっちゅう壊してしまっていた。それをいつも手先の器用な佐清が直していた。珠世が小学生、佐清が中学生の頃である。その美しき2つの雛鳥の間にはどのような想いがあるのか、そしてそれを佐兵衛翁は、どのような気持ちでみていたのか・・・。との記述がある。そう、佐兵衛翁は幼き頃より本家にて二人をみて、互いの想いを、珠世の想いを、愛をわかっていたのである。

佐兵衛翁の想いは、珠世を犬神の家に引き取ったあと、至上の愛から転じたに娘たちへの怨念をも上回るあるおおきなひとつの想念に向かっていった。

そう、生涯でただ一人愛した女・野々宮春世の血をひく自分の孫に犬神家を継がせる。

つまり、財産と全事業を与える。野々宮珠世に。


佐兵衛翁は珠世の想いと同時に、珠世という人間もわかっていた。一途な珠世は、佐清と一緒になれなければ、その場合は犬神の家には居座らないであろうと。たとえ自分の素性をわかっていようとも。表向きは佐兵衛翁も野々宮家の、恩人の孫として招き入れている。そして法的にも犬神家とは自分は何の関係もない。

それでも珠世が成人後も平気で犬神本気に何故いられたのか。
珠世は、自立した聡明で強い芯のある女性である。それはまさしく佐兵衛翁の孫であった。
その彼女が、犬神家に平然と怨念の対象である松子婦人からアカの他人との目で、さらには嫉妬の目でみられながら何故住んでいられたのか。

やはり、彼女は佐兵衛翁の想いを、愛情をたっぶりと注いでくれる佐兵衛翁の愛を十二分に分かっていたのであろう。そして猿蔵の存在もある。彼は、佐兵衛翁からどんなことがあっても珠世を守れと言われている。その点からも、珠世は思ったはずである。そして愛情が深ければ深い程、疑問に思ったはずである。そして、悟った。もしくは、自分で調べた。この事実は後に金田一耕助が調べ上げ、事実が判明する。聡明な彼女も自分で・・・・。その可能性は十分にある。

とにかく真偽の程は不明だが、珠世は最低でも確信があったのである。

そう、真実を知っていたかどうかはともかく、最低でも佐兵衛翁の自分への過大な愛には当然気づいていた。そして、自分が佐清に想いをよせていること、相思相愛であることも、知っていると気づいていた。故に自分が佐清と一緒になることも佐兵衛翁は反対しないと気づいていたのである。それゆえに、そのために珠世は犬神本家にいれた、いや、いたのである。
だが、佐清と何らかの事情で一緒になれなかったとき、または佐清がこの世から去ってしまった時、珠世は迷わず犬神の家を出たであろう。佐兵衛翁もそう思っていた。佐兵衛翁はたとえ佐清と珠世が一緒になれなくとも、財産と全事業は譲りたかった。それほどまでの想いを、至上の愛を、想念を、そして同時にその至上の愛から転じた三姉妹への怨念も犬神佐兵衛翁は遺言状にこめたのである。

犬神家の全財産と全事業の相続権を意味する犬神家の三種家宝・よき(斧)、琴、菊は次の条件の下、野々宮珠世に全納するとす。


条件をあたえ、珠世に選択させる形をとったが、実際には選択肢などなかったのである。珠世の想いはひとつ。それを佐兵衛翁は分かっていた。一途な珠世の愛、想い、それに自分の春世への愛、想いを重ねたのである。
珠世がだれを選ぶかは佐兵衛翁はわかっていたのである。そして佐清と一緒になれなければ犬神の家を出て行くことも。珠世はたとえば佐清、そして他のふたりの孫が亡き者となってしまっていた場合でも犬神の家をでたであろう。佐兵衛翁は万が一そのような犬神の三人の孫が、全員亡き者になってしまった場合には、その場合でも財産と事業は珠世に継がせたかった。ゆえに、遺言状で3人が3人とも珠世との結婚を望まず、又は死亡せし場合は珠世は何人と結婚するも自由とす。と記した。

そして、どうしても珠世が犬神を継がない時、もしくは亡くなった時は、怨念の対象である3人の娘への怨念が浮上するような遺言状にしたのである。そう、あの遺言状には、第一には想念、至上の愛がこもっていたのだが、その奥には三姉妹への怨念もこもっていたのである。ただ、ひとつ間違いなく言えることは、その怨念は、至上の愛から転じた怨念なのである。

そう、正に 
遺言状にこめた至上の、真実の愛 

なのである。

つまり、珠世が継がない場合は、財産等は五等分され、3人の孫に3等分づつ、残りの3分の2が青沼静馬に相続されると記述した。これが三姉妹への怨念の浮上、つまりは犬神家の、佐兵衛翁の怨念にとらわれた古い犬神一族の、つまり犬神三姉妹の血で血をあらう自己崩壊への道なのである。

原作では次のような記述がある。

>(佐兵衛)翁はおのれ百年ののち、松子、竹子、梅子の三人のあいだに血で血を洗うような葛藤の、おこることをのぞんでわざとあのような怪奇な遺言状をつくったのではなかろうか
(「犬神家の一族」角川文庫版より)


三姉妹にしてみれば、倅の誰かと珠世が一緒にならなければ、財産を独り占めできない。そして、珠世が仮に亡き者や放棄した場合は、財産は等分され、自分たちの取り分よりも倍のものをアカの他人、父の愛人の女工の倅に持っていかれてしまう。

もちろん、アカの他人である珠世が独り占めするよりはましと、珠世が狙われる可能性は十分にある。この遺言状はその可能性をも含んでいる。あの何の愛情もそそがずに怨念の対象でしかなかった三姉妹である。あの力ずくで菊乃から家宝を奪い取った娘たちである。それくらいのことは当然考えていたであろう。現に珠世は命を狙われる。故に猿蔵に密命をくだした。そして、もうひとつの防御をふくませていた。だが、仮にその防御もきかなかった場合は、もう最後、佐兵衛翁はどのような形であろうと、珠世が継げない時は、たとえそれが意に反する殺人等で珠世が亡き者になってしまった場合でも、その時は、怨念にとらわれている三姉妹の自己崩壊を望んだのである。つまり、佐兵衛翁は、自身とともに怨念の対象である三姉妹の自己崩壊を遺言状にこめたのである。

表面上、アカの他人の、愛人の女工の倅が一番多く財産を持っていくのである。何の争いも起こらぬはずがない。
かつて、三姉妹が力ずくで家宝を取り戻した、あの憎くき青沼菊乃の倅が。三姉妹の怒りと葛藤は・・・・

原作ではさらに、佐清ら3人の孫の誰が死んでもその分の財産は静馬に、静馬の所在が不明や死亡した場合は犬神奉公会へとなっている。三姉妹の怒りと葛藤は更に・・・・。


ただこの場合、佐兵衛翁は薄くとも春世の血をひく自身の子である静馬に本当に財産を譲ろうとしたのか。もちろん、珠世が放棄または、亡き場合はそうなるよう希望し同時に、三姉妹が苦しむよう怨念をこめた。だが、一番の想いは、やはり珠世の為にその記述をいれたのであろう。つまり、あの強欲な三姉妹が、アカの他人に一番多くの財産がゆくことなど許すはずがないと。すべては、第一にはやはり珠世の為に・・・・・。そして、私は佐兵衛翁は恨んではいたが、実の娘達の性格を十分にかわっていたと想う。実際に三姉妹は青沼親子にひどい仕打ちをした過去がある・・・・・。

この点も原作では松子未亡人がみずから語っている。
私たち三姉妹が珠世さんに危害をくわえないように、青沼菊乃の件をもちだしたのですと。
>わたしどもがどんなにはげしく、菊の親子を憎んでいるかということは、亡父はもう骨身に徹するほどよく知っています。その憎い憎い菊乃の小せがれに、遺産の分け前を渡さぬようにするためには、どうしても珠世さんを生かしておかなければならないのです。

長女・松子は、珠世の正体は当然知るはずもない。だが、倅の想い、いや二人の想いは当然知っていたであろう。だが、犬神総本家の跡取り息子が恩人の孫とはいえ、要はただの同居人の娘と一緒になることには抵抗があったはずである。いや、珠世に対し嫉妬と葛藤があったはずである。佐兵衛翁の過度の寵愛をうける珠世に。佐兵衛翁のいかに恩人とはいえ、野々宮家への報恩の念があまりに度がすぎていたこと。これは自分たちの母・そして自分たちへの怨念からだと。だが、遺言状を盗みみた時にこれは渡りに舟だと思った。二人は相思相愛である。しかし、肝心の佐清が戦争にとられている。この焦り、要は財産に目がくらみ、正常でなかった為に、自身の倅を見抜けなかった。そして、二人の想いは知っていたが、帰還した倅はあのような顔になってしまっていた。それが完全に松子を正常ではなくした。あの顔ではいかに珠世でも佐清を選ばないかもしれない。幼い時から佐兵衛翁の怨念の対象であり、怨念にとりつかれていた松子。その松子に、佐兵衛の怨念がおそいかかる。そう、見えない力が・・・・・


佐兵衛翁が遺言状のこめた一番の願いは、珠世が、自身の愛する男・佐清と一緒になり、犬神の家をつぐこと。佐兵衛翁が自身の一途な愛、生涯でただ一人あいした女性・野々宮春世への想いと珠世の一途な愛、佐清への想いを重ねたのである。当然、二人は実際にもいとこ同士であり、法律上珠世は野々宮家の孫であり、問題はない。その珠世の想いに、自身の壮大なる想念を重ね、遺言状にこめたのである。真実の愛を。

そして、春世の血をひいた孫が、自分の孫が晴れて犬神珠世となる。

佐兵衛翁の怨念にとらわれていない珠世、そして珠世が佐清と一緒になり、犬神珠世になることから、壮大な佐兵衛翁の想念から解き放ち、新しい犬神一族をつくってゆくことを。

松子は、自分の為に、自身の想いで、佐兵衛翁への反骨、復讐で行動したのだが、要は、佐兵衛翁の一番の望みを、自身の手でかなえてしまった・・・。


これがあの私が気になる、名探偵ならではの金田一耕助のふたつの台詞である。

 『一連の殺人事件は、佐兵衛翁がやらせているような気がしてならないんですがねぇ・・・』

 『僕はこうおもうんです。貴方は佐兵衛翁の望んだことを貴方の手で実行してしまったんですね。』

見えない得たいの知れない力、要は、佐兵衛翁の怨念、いやその怨念をの凌駕するあまりに壮大な想念、それを金田一耕助は早い段階で感じ、そして最後はそれを明らかにしたのである・・・・。

その想念が、三姉妹、松子婦人には怨念であったであろう。


松子婦人自身もその怨念を感じていた。自分が自分でなくなるとき、何かが私を動かす。と、言っている。
だが、彼女はそれが父の怨念のなせる業で、それよりも大きな、至上の愛、想念には気づいてはいなかった。故に、金田一が、珠世が佐兵衛翁の本当の孫であると告げた時、あれほど取り乱したのである。自分を動かしたものは、自分への怨念ではなかったと。いや、怨念は間違いなくあった。だが、それがたとえ怨念という負の想いであろうとも一番ではなかった。佐兵衛翁は自分たち三姉妹への深い怨念があるからこそ、アカの他人である野々宮珠世に、恩人である野々宮家の孫に、財産をくれてしまうのだと思っていた。そう、野々宮家への度の過ぎた報恩の念はすべて三姉妹への怨念であると。それほど自分たちを恨んでいると。ならばどんな手をつかっても財産を手にいれてやる、佐兵衛翁の怨念に対抗すべく。それが父への復讐だと松子は思った。松子は珠世が野々宮家の孫でないことに驚愕する。そして知る。抵抗するつもりが、父への復讐のつもりが、手を貸してしまったと。佐兵衛翁の一番は、自分たちへの怨念ではなく、愛した女への愛、想い、そこからなる壮大なる想念であったと・・・・・。

よくよく考えれば、殺人だけではない、先述した青沼菊乃親子から三種を家宝を無理矢理奪いとった。この事件さえも佐兵衛翁の・・・・




野々宮珠世は、分かっていた。佐兵衛翁の想い、もしくは自分自身の正体を。
いや、正体がわかっていた確証はない。だが、確実にいえることは、佐兵衛翁の自分への寵愛、彼の想いからもしかしたらという想いがあった・・・・。

だが、どちらにしろ素性をあかせないこともわかっていた。自分はあくまでも野々宮珠世であると。だが、佐清と一緒になることを佐兵衛翁は反対しないだろう、いや、それを佐兵衛翁も望んでいるのではと思っていた。

故に珠世は遺言状の内容に驚いたはずである。事実、彼女は驚いている。

いかに大恩人の孫であろうとも、あくまでも野々宮家の孫である自分に、全財産・全事業を譲るなどと書かれているとは微塵も思っていなかったからである。そして、犬神の三人の孫が珠世との結婚を拒否したり、死亡せし場合は珠世は何人と結婚するも自由との記述もあった。

これで彼女は確信した。
佐兵衛翁が何を望んでいるのか、そして自分が何者か。

原作には次のように記述がある。

最初こそ遺言状の内容に同様し、ショックを受けていたが、読み終える頃には、
>彼女はただ端然と、静かにすわている。ただ、その瞳には、一種異様なかがやきがあった。それはまるで夢を追うような、幻を慕うような、異種恍惚たるかがやきであった。


そして、彼女は決意した。
そう、この佐兵衛翁の想いに必ず応えると。


佐兵衛翁の想いに、今度は珠世が自分の想いを重ねたのである。
つまり、必ず佐清と一緒になると。


だから、珠世は出過ぎた行為だとわかりつつも、静馬の正体を懸命に暴こうとしたのである。彼が佐清でないことは、愛する珠世にはわかっていた。

あの遺言状の中身をしった、佐兵衛翁の想念の知った珠世は、佐清が生きていようといまいと、偽物の佐清と一緒になり犬神家を継ぐことはなんとしてもできなかったのである。

自分の想いがどうなろうとも、偽物に犬神家を継がせるわけにはいかない。そう思ったのである。そして、やはり佐清が戦死や殺されてしまっていた時には、珠世は犬神の家をでたであろう。何故なら珠世もその一途な想いを、佐兵衛翁の想念に重ねたのだから・・・・



しかし、やはり第一には、偽物の正体を明らかにし、なんとしても佐清と一緒になりたいとそう想ったはずである。いかに自分の正体に気づこうとも、それが犬神家に招かれた自分の使命だと。溢れる程の愛情をそそいでくれた佐兵衛翁の想いであり、それに自身の想いを重ねたのだからと・・・・、

彼女はそう決意したのである・・・・・。








かりに、犬神家の三人の孫が全員亡き者となっていた場合はどうであったであろう。こんあことを考えるとキリがないが、佐兵衛翁の想いは遺言状にあるとおり。
だが、珠世の想いは・・・・。

彼女は犬神の家をでただろう。それも彼女は気づいていた。想念なきあと、表面には怨念が浮上すると。その後、血で血をあらう葛藤が三姉妹に残る。怨念にとらわれた犬神三姉妹の自己崩壊を佐兵衛翁は望んだのである。あの珠世が実際にそのような争いを願うことはないであろう、だが、佐兵衛翁の怨念が、その対象である三姉妹の自己崩壊、つまり三姉妹は佐兵衛翁と所詮は運命を共にすることを望んだその怨念が、珠世に、心おきなく犬神の家をあとにさせたであろう。

想念の真のこたえはただ一つだけだから。
珠世の想いに、自分の想いを重ねたのだから・・・






この想念を知ると、三種の家宝に見立てた、三種の家宝の怨念による連続殺人など、かすんでしまい、おどろおどろしさを醸し出すためのオカルト的な幻惑にすぎない。原作にあるのは、あくまでも本質は論理の文学なのである。映像化する際にこの点に気づいていない脚本家や監督がつくるととんでもない駄作となる。
また、このことを理解できずに作品を鑑賞し、暗い、古くさい、探偵が事件のあとに解説をし、犯人を捕まえられずに殺してしまう間抜けな物語などとの愚かな感想をいだいてしまう・・・・




これは以前にも別の記事にて記述したが、
この「犬神家の一族」、市川版のオリジナルだが、この想念を、珠世の正体を知って鑑賞するとその台詞がとても興味深く、そして有効となってくる。

そして、その想念に、そしてその想念の奥に潜む至上の愛から転じた怨念にとりつかれてしまった松子未亡人に、金田一耕助は同情し、あのような行動を・・・・






“真実の娘が相続の対象にならないなんて、そんなもの遺言でも何でもないわっ。!”

“血縁でない娘が財産を持って行っちゃうわけ!”

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“あなたと竹子さん、梅子さんの姉妹は遺産相続人からはずされていた。
 そこで、あなたは自分の息子の佐清君を珠世さんと強引に結婚させ、遺産を独り占めしようとして殺人を決行した。
 しかし、あなた、その珠世さんが佐兵衛翁の本当のお孫さんだということをご存じですか。”

“僕はこう想うんです。
 あなたは、佐兵衛翁の望んだことをあなたの手で実行してしまったんですねぇ。”

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松子婦人が煙草に手を伸ばすのを見た金田一耕助は、その後、松子婦人を注意してみようとしなくなる・・・。

そして・・・・


“しまったっ・・・・・、煙草だ・・・・・。”



彼は周囲に聞こえるように大声で叫び、いち早く立ち上がった。









※本記事は、原作の内容にもふれていますが、原作を読んだ上で、あくまでも市川版の映画についてのものです。

  原作について記述しているは、

   『犬神佐兵衛翁、遺言状にこめた真実の愛 〜「犬神家の一族」』

                        です。






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