取手物語〜取手より愛をこめて

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zoom RSS 「犬神家の一族」 青沼静馬の儚き宿命

<<   作成日時 : 2012/02/25 15:52   >>

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「犬神家の一族」で一番の犠牲者は誰か。

それは青沼親子、つまり青沼菊乃であり、やはり静馬であろう。



菊乃は、50歳を過ぎた佐兵衛翁から寵愛を受ける。そして、静馬を身ごもると一時は佐兵衛翁の正妻として迎えられる話まででる。それは犬神三姉妹の命がけの脅迫、猛反対により阻止されるが、その後、佐兵衛翁から犬神家の全相続権を意味する三種の家宝・斧(よき)・琴・菊を譲り受ける。
青沼菊乃は犬神の工場で働く女工である。佐兵衛翁はとびきりの美人でのないこの菊乃になぜこれほど入れあげたのか。
原作ではきちんとその理由が明かされる。それは佐兵衛翁の至上の愛ゆえ・・・。
菊乃は、佐兵衛翁がその生涯でただひとり本気で愛した女性・野々宮春世のいとこの子。最後の、ただひとりの血縁だったのである。
春世の子・祝子、つまり佐兵衛翁の真の長女だが、彼女は佐兵衛翁の斡旋で婿をもらい那須神社の神官を婿につがせる。が、その婿と祝子の間に長らく子ができなかった。これが佐兵衛翁が菊乃に愛情をそそいだ理由である・・・・。
本気で愛したのであろうが、その動機を想うときに、私はやはり大きな儚さを抱かざるを得ない。

佐兵衛翁の至上の愛の犠牲者であると・・・・。



また実際にも菊乃はその後、ひどい仕打ちを受ける。犬神三姉妹に。
佐兵衛翁が三種の家宝を渡したことにより、犬神三姉妹の菊乃への恨みは頂点に達する。彼女達にしてみれば、50を過ぎた父が突然いれあげたどこの馬の骨ともわからない女。しかも犬神の工場の女工で、大して器量がいいわけではない。そんな女に財産をもっていかれてたまるかと。

佐兵衛翁は春世への愛から生涯正妻をもたなかった。
ただ、性欲を満たす為に妾をかこい、その妾に愛情がわかぬようにと三人とした。そしてその妾との間に生まれた三姉妹にも妾同様一切の愛情を持たなかった。それどころか、三姉妹に対しては、祝子への想いから強い恨みだけが大きくなっていった。

ところが三姉妹はそんな佐兵衛翁の想いなど知るよしもない。
妾の子と自分たちを愛さないばかりか、憎しみだけを与え、財産・事業まで渡さない気か。しかも、それをよりによって、アカの他人の女工に、女工の子に渡すのか、三姉妹は怒り狂い、身を隠す菊乃親子を見つけ出し、狂気の仕打ちと脅迫をする。

自身酷い仕打ちを受け、さらに静馬の命の危険を感じた菊乃は三種の家宝を返し、恨みの言葉を三姉妹に残した。
これが、青沼親子の、斧(よき)・琴・菊の三種の家宝の怨念である。


三姉妹の狂気の奪還に怯えた菊乃は、その後富山の遠い親戚の家に静馬を預け、自身は身を隠す。
原作では菊乃は再び犬神家と接点をもつ。そして静馬と再会するが・・・・・。
やはり、彼女は大きな佐兵衛翁の、犬神一族の犠牲者といえよう。

市川版では、菊乃の正体についてはふれていない。佐兵衛翁が50を過ぎて突如、寵愛した愛人・アカの他人の女工である。そして、犬神殺人事件時にはすでに死亡している。
通常、菊乃の正体を解明しないと、野々宮春世の最後の血縁であることを描かないと佐兵衛翁の至上の愛が成り立たない。つまり、愛人をもってもよいのだが、三種の家宝まであたえてしまうとなると、その生涯で愛した女性はただ一人・野々宮春世という佐兵衛翁の至上の愛が、その根拠が弱くなってしまうのである。
市川版で私が唯一疑問の点であった。これについては別に記事とする。
通常、この点を描かないと稲垣版のような核のない、デタラメな話、脚本になってしまう。

だが、市川版は違う。
春世への至上の愛、それゆえ佐兵衛は若き頃より、悩み苦しむ。そして娘達へ恨みさえ抱く。そんな歪んだ感情、鬱積はらしは事情の拡大にもつながった。闇の面にも手を出し、犬神財閥は巨大となってゆく。
祝子になかなか子供ができない佐兵衛翁はその憂さ晴らしの一つとして、ひとりの女工を愛した。そしてそこに癒しをえた。そしてあまりに大きくなった三姉妹への恨み、祝子に子供ができない葛藤など様々な歪んだ感情から菊乃に、菊乃親子に三種の家宝をゆずってしまう。
そう、青沼親子は正に佐兵衛翁の歪んだ感情の犠牲者として描いているのである。
それはつまり・・・・。
そして、春世への至上の愛は、核は、金田一耕助のあの台詞によって、直接的かつ効果的に描かれているのである。

市川崑は、独自の描き方ながらきちんと佐兵衛翁の真実の愛を描いている。
だが、通常この菊乃が春世の最後の血縁であることを描かないと、稲垣版のように本来こけおどしといえる幻惑の、まさに偶然の産物、いつくのも偶然がかさなった産物である真犯人隠しの手段にすぎない見立て殺人を核として描いてしまうとこの名作がただの意味のない駄作となりってしまう。三種の家宝の怨念は、青沼菊乃の、青沼親子の怨念である。その怨念と佐兵衛翁の遺言状にある野々宮珠世の第一相続はなんら関連性がない。佐兵衛翁の遺言状が無意味になり、珠世の存在が、何者かがまるで意味のない、ただの女工の恨みの話になってしまうのである・・・・。


原作で菊乃は、最後に松子未亡人より再び惨い仕打ちを受けることになる。
青沼菊乃、彼女は佐兵衛翁の真実の愛の犠牲者であり、犬神三姉妹の怨念の犠牲者であった。



そしてその息子・静馬。
彼もまた、三姉妹の怨念の犠牲者であり、そして佐兵衛翁の真実の愛の一番の犠牲者である。

遺言状は、最初に全て珠世、そして最後には全てが静馬に相続権がいくようになっている。
青沼静馬、彼こそが正に犬神佐兵衛の嫡男。ただひとりの実の男子である。それゆえ、三姉妹からすれば、一番疎まれる、一番邪魔となる、一番の怨念の対象なのである。佐兵衛翁は春世への真実の愛ゆえに、実の子、本来嫡男でありながらも珠世の次に相続権をあたえた。あくまでも二番目に・・・・。

果たしてそうなのであろうか。
佐兵衛翁は本当に、静馬に相続権をあたえたかったのか。
もちろん、与えたい気持ちはあった。実の子である。あくまでも珠世が相続できない場合は。
あくまでも第一相続は珠世である。彼女が相続できない場合に静馬に一番財産がいくようにした。さすがに事業の相続は孫達を優先したが、その孫の誰かが相続権を失ってもすべては静馬にいくようにしたのである。そして静馬が相続権をうしなった場合は、残りの血縁者にゆくのではなく犬神奉公会へゆくようになっていた。

まさに怨念のこもった遺言状である。
この内容では、第一相続者の珠世までが、いや珠世こそが命を狙われる。


が、ほんとうにそうか。


そこには、怨念なんかよりもはるかに大きな、佐兵衛翁の愛が、真実の愛がこめられていたのである。


佐兵衛翁の願いは、ただ一つ。
春世の孫・野々宮珠世に相続させること。全財産・全事業を相続し、佐清と一緒になり犬神珠世になることなのである。

珠世が、アカの他人に財産を独り占めされるくらいならと、三姉妹に殺害されてはならない。その為の保険が静馬への相続なのである。
繰り返すが、静馬に相続させたい気持ちも当然佐兵衛翁はあったであろう。だが、一番は珠世あくまでも珠世なのである。珠世に全てを与えたかった。珠世になんとしても佐清と一緒になってほしかった。春世の血を犬神の家にいれる、その想念。その想念と珠世の想いを重ねたのであるから。

いかに実の子であろうとも、春世の血を、春世との血を、春世への愛がなによりも優先なのである。それが佐兵衛翁の至上の愛。

そのために静馬も所詮利用されたのである。
つまり、三姉妹の青沼親子への怨念は尋常ではない。あの青沼静馬に犬神の財産など、びた一文渡してなるものか。当然三姉妹にはその想いが溢れ出る。そうなると珠世にはなにがなんでも生きていてもらわなくてはならない。珠世は殺せない。

佐兵衛翁の春世への至上の愛のまえでは、たとえ実子・静馬であろうとも利用される人物でしかなかった。

青沼静馬こそ、まぎれもない佐兵衛翁の愛の犠牲者なのである。

そして静馬は実際にも犠牲者となる。
原作では、まさに珠世の為に、彼女の存在の為にある意味自滅してしまう。佐清になりかわり犬神家をのっとうろうとするが、珠世が佐兵衛翁の孫と分かると、元来真面目な彼は珠世と結婚できなくなってしまう。そう叔父と姪なのだから。
その為に自ら松子未亡人に正体を明かし、松子婦人に始末されてしまう。
当然、珠世にも好かれていなかったわけだが、正に彼は真実の愛の前に敗北する。そう、愛の犠牲者となる。
市川版では、珠世の素性はしらず、ただただ犬神家への怨念・復讐の念に燃える静馬は犬神家をもっとろうし、松子婦人の秘密をも握り勝利を確証した彼は、松子婦人の前で正体を明かし、怨念ゆえに殺害されてしまう・・・・。




結局、偶然の遭遇で彼は松子の殺人の事後処理をし、自身の怨念である三種の家宝に見立て、松子の行動をたすける。そしてその想いをとげさせる。
それは、要は佐兵衛翁の一番望んだ結果となる。つまり静馬は佐兵衛翁の想念をかなえるための歯車の一部となる。

まさに犠牲者・・・・・。






ここで、ひとつ考えてみる。
三種の家宝は、三姉妹によって奪還される。
その後に、祝子にやっとこどもができる。珠世である。
結局、三姉妹の行動は佐兵衛翁にとって吉とでるのであるが・・・。

もし、もし、三種の家宝が菊乃にわたっていたままだったなら、もし、佐兵衛翁が菊乃を正妻として迎えていたら・・・・。
家宝だけだったら、三姉妹をうまく利用し、奪還させたであろう。正妻としていた場合は・・・。
いや、ある可能性があるうちは佐兵衛翁は絶対に菊乃を正妻とすることはしなかったであろう。実際に原作でもそういう噂ということで、佐兵衛翁がそうしようとしたことは記述されてはいない。ただ、寵愛し、いりびたり、同棲まがいの生活をおくっていた。
つまり、祝子に子供ができる可能性があるうちは、いや、たとえもう子供ができない場合でも、そう思ったからこそ、佐兵衛翁は菊乃という女性にたどり着いた。その場合でも、犬神の家に招き入れたとしても、静馬に相続を約束したとしても、正妻としては迎えなかったであろう。
そして、その場合でも珠世が生まれた段には、それ相応の金を渡して追い出したであろう。

佐兵衛翁の愛は、想いはただひとつなのだから・・・・・


すべては佐兵衛翁の至上の愛ゆえに・・・・。


青沼菊乃、静馬この親子は、佐兵衛翁の愛の犠牲者。
そして、三姉妹の怨念の犠牲者。




とくに青沼静馬、
彼は珠世がいる限り、佐兵衛翁の嫡男でありながら、犬神の財産を引き継ぐことはできなかった。

そして、原作でだが、
佐兵衛翁の実子であるがゆえに、珠世と結婚することができなかった。

そして、動機はどうあれ、佐兵衛翁に愛された女の子として生まれたばかりに三姉妹の一番の怨念の対象となった。


青沼静馬、生まれながらにしての儚き宿命・・・・
真の犠牲者といえよう・・・・




















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