市川崑の金田一耕助 ~「犬神家の一族」(2006) 天使のような風来坊

「犬神家の一族」を鑑賞して1週間経つ。ここへきてやっと映画プログラムの表紙をめくった。


プログラムを購入された方には、そのままだろうと言われそうですが、あえてこの記事を書きます。書かずにはいられない。
映画は鑑賞した方が様々な感想を持ちます。それは当然です。しかし、つくり手側はこう伝えたいというひとつの思いがあります。それは自分の感じたことと違うかもしれない。作り手としては残念なのかもしれないがそれが映画であると思う。今回それを確かめたいのである。

まぁプログラムを買わなかった人は是非、読んでやってみて下さい。


私は思い違いをしていた。プログラムの中で市川監督は、

>(プロデューサー一瀬氏から「犬神」をやりませんか?といわれ)自分がやるには自信が持てなかったものですから即答を避けて、返事を二日待ってもらいました

そして、一瀬氏の製作への強い意欲に負け握手してしまったと。
ただ一瀬氏の記述に、監督からの条件として、金田一役は石坂浩二さん以外ではできないとあったそうです。
そして一瀬氏からの条件は、珠世は松島菜々子、音楽はオリジナルのテーマ曲をそのまま使う、そして脚本もオリジナルのものをできるだけ崩さずに使ってほしいとのことだったそうです。


監督は前作が、想像ですが、出来はいいものの全てがイメージ通りにできたとは思ってはいないはずです。しかし、現実をみたのでしょう。
まずオリジナルと違えるにはどうしたらいいかを考えたそうです。そして、前作は湖が舞台となるが川にしようと最初考え、脚本を練りはじめたそうです。
すると一瀬氏から「脚本も昔のままでいいんです」といわれ、
監督は、僕はあれから歳をとっていますから「前の通りにはいかないで、下手かもしれませんよ」と言ったそうです。

やはり、監督は現実的にみてオリジナルを超えることは難しことを十二分に誰よりも一番理解してたのである。私が記事で“本当はこの画が撮りたかったのでは”記述したのは厳密にいえば間違いである。そう撮ったことは、こうすることがオリジナルよりよいと思ったのだろうが、撮り直したい為に製作をしたのではないのである。


一瀬氏は下手でも昔のままでとの一点張り。それで市川監督も川で考えていた脚本をひっくり返し、新たに自分なりのテーマを探してやり始めたそうです。

そのテーマとは、
>原作は大長編ですが、絶対に面白い。親と子の願望と愛憎。それを幻想妖美、殺人の美学と交錯させていく。この横溝さんの見事なつくりものを、どのようにして現代に通じさせるかが勝負

そして、松島菜々子に
>「メロドラマだと持ってやってください」
と言ったそうです。これはオリジナルの通りではあります。珠世は一途に佐清を思い続けます。

やはりそのテーマとしたところから、オリジナルより、よりわかりやすい内容をめざしたのだろう。そして、殺人は当然描かずにはいかない訳で、より“愛”をつよく意識したのではないだろうか。
石坂浩二も、オリジナルよりミステリーとしての色合いが薄いとの印象を語っています。
>佐兵衛翁と野々宮大弐・春世さん夫婦との関係を描いた回想シーンがまったくない。つまり佐兵衛翁が一代で成り上がった部分のサスペンスは登場しないんです。・・・・今回、最終的に監督が表現しようとしているものは違うと思いました。

更に、
>もっと明快に犬神家の一族の中で、佐清君と珠世さんを軸にしていきたいんだなと感じたんです。

私の感じた部分とは完全に一致はしないものの、市川監督がより“愛”を表現しようとしたと感じたことに確信を得た。
ただ、私は実際に鑑賞して感じたところ、実際に監督と一緒の時を過ごし、演じた主役の思いとは若干違う思いがある。つまり珠世のカットが増え、珠世の思い、そして佐清の思いの強さは当然強く感じますが、全体的にオリジナルよりつよい“愛”、つまり親子の愛等もふくめ強く感じるのです。

以前、自分でも他の横溝に関する記事で似たようなことを記述しましたが、全体の作風を守る為、その作風をより強く、また一部を強く表現する為には、限られたシャクの中では一部を弱めたり、あるいは全く描かないことがその本来表現したい部分を守り、強く描きだすのに効果があるのであろう。


また金田一耕助を演ずるにあたって石坂浩二は、
>元々のイメージは前作でつくりあげられていますし、それは私が演じてはいますが、市川監督がお作りになったものです。

ただ、
>監督は前に金田一を天使や神様でとかおっしゃって、そこはずっと抵抗していたんです。・・・・役者としてはこの世のものでない存在を演じるのは困るのでね。

イメージする監督と実際に演じる役者との思いの違いを述べている。また事件の渦中にはいるが、あくまでも第三者で、そうでありながら長々と最後は事件の真相を述べなくてはならい、つまり探偵ものの主軸である謎ときをするのだが、メインの出来事には絡まないというそのポジションの難しさ、それを演じなけらばないない悩みという部分ではオリジナルより人間味を出すことが答えに近い気がすると述べている。
特に風来坊で飄々としているイメージがある金田一、横溝作品に感じられる一般的によく言われる、おどろおどろしさの中の清涼剤的な部分もあるだけに非常にむずかしところではあると思う。

ただ、
>今回の金田一は55,6歳のイメージで、そこまできた彼の人生を考えた上で演じたつもりなんです。実際、前に演じた時には金田一として若すぎたと思いました

ん~、ここは・・・・石坂氏も当然知っていると思うが、原作的にはオリジナル時の演じた年齢はまさにその年齢にちかいのですけどねぇ。演ずる側としては苦労したり違和感を覚えた点があるのであろう。

とにかく、その年齢設定がオリジナルより今回は、若い珠世や佐清に対しては親のような存在としてとらえて演じられたのであろう。


また、私が違和感を感じた加藤武とのシーンは、
>そこが(加藤武とのシーン)僕としては、6本目の金田一という感じがしたんです。前のシリーズでも加藤さんは段々とこいつどこかで見たことがあるなという芝居を入れていたでしょう。その流れで前の時のように金田一を邪魔者扱いするところは全く無くなってますね。

なるほどと感じた。
(ただ、こだわるようだが、厳密には前作でそれぞれ違う役どころですが。
 原作とも設定を変え、「犬神」では橘警察署長、「手毬唄」では岡山県警の橘警部、「獄門島」では岡山県警の等々力警部等となってます。まぁ、この辺はこだわる部分ではないのですけどね)

やはり、私がよく映画鑑賞時にいう、あくまで、つくりものである点を考慮し、映画的なことも大きな気持ちで楽しまないと、全くつまらないものになってしまいます。
今回でいえば一番思うのは、佐智乗ってくるボート、昭和22年にしては最新すぎないか~。
でも、それは当時のボートが手にはいらなかったのかどうか詳細はしりませんが、映画ですから。予算等もあるわけですし、筋にはなんの影響もない部分ですし、その辺、考えるとほんとにつまらなくなります。


しかし、やはり監督のこだわりには今更ながら驚かされます。音楽・撮影・美術・照明・録音・編集・衣装・装飾・視覚効果 等々、全てにおいて。

一部特に気になった点をあげますと、

視覚効果では金田一の登場シーン、前作と同じバックで登場させたいとの市川監督のつよい要望で、CG処理を施し、季節をあわせる背景の山の撮影など半年を費やしたそうです。

編集は、長田千鶴子さんが担当され、1970年からの市川組。オリジナル時、監督の指示はこまかく、カットももっと細かくなど注文がすごいそうです。そして編集しても監督がずいぶん直したり、結局、市川崑編集・長田千鶴子チーフのようだと。今回も「この辺で観客があきるのでは」と何度もシーンを入れ替えたりしたそうです。

ただ、劇場でみた時、前半の画は非常にいいと思いました。今でもオリジナルより画はいいと前半い関しては思っています。しかし、流れでみた場合、市川監督独特のあの細かなカット割、これは友人E君も劇場鑑賞後、オリジナルをみて思ったと言ってましたが、私も一部オリジナルを見直して、その点では甘くなってますね。やはりご自分でも言っているが、歳なのかな~。


また、照明。シリーズ2作目「手毬唄」ではとにかく顔を陰影がほしいとの要望があったそうです。かなり陰影を意識されようである。だが、今回は前作と同じはと照明が悩んでいると「あまりこだわらなくてもいい」と言われたそうです。これはなはり長年の市川組なのであろう。
照明の斉藤薫氏は女優の競演に「細雪」を意識した画をねらったそうです。綺麗だけど不気味さもある画・・・

撮影も、湖から足がでているシーン、今回はあえてロングショットで撮ったり、遺言状公開の犬神家の大広間のシーン、オリジナル撮影じは襖の金の発色が悪くリテイクしたそうです。今回は襖だけをカメラテストし、監督からNGがでないように臨んだそうです。

プログラムを読んで私自身強く感じたのは、私は結局、純粋にこの本編だけを鑑ていないことです。あくまでもオリジナルとの対比でみています。不満に感じる点があるのは当然で、それはリメイクではそのように描いていなからです。
つまり、このリメイク作品自体をよく理解していないのかな~。
オリジナルの画が頭に焼き付いてしまっているのでどうしようもないのですが、それにより監督の表現したい点、主役の役者が感じて演じた点と違う思いを感じる部分があるのでしょう。

しかし、しかし、ん~、結局、オリジナルと比較してしまうんですよ、絶対に。その佐兵衛翁の見えない力という部分、ここは重量な部分ですし、最後の犬神の大広間でのシーンでもオリジナルからセリフがけっこう減っています。その点に関しては、そのおかげで“愛”をつよく感じるとも私は思えません。いや、逆に弱くなっている。そして、ミステリーとしても弱くなる。動機も弱くなる。初見の方には・・・
ん~、となると今作、テーマのおきどころ、私はやはり不満ですね。ただ、同じにはつくれないという思いも分かるので・・・・、いってみれば無理矢理にその核を変えざるを得なかったのかと。あ~複雑な心境ですね。



そして、私の最大の関心事、「市川崑の金田一耕助」について監督自身の言葉が掲載されている。
>僕は、金田一を天使だとは言ってません。天使のような存在だと言いました。横溝さんが創造した金田一のキャラクターは素晴らしいんですが、映像では、そのとおりにすると生きません。ここでの金田一は人間の願望や欲望が毒々しくうごめく犬神家の中へ入っていくわけですね。

こういう存在としての彼はどこか清純で透き通った推理力を持っていると。
横溝さんにも了解を取って、金田一のキャラクターは見た目の服装以外、ガラッと変えてしまったんです。そういう金田一像は、今回も踏襲しているつもりです。

やはり映像の職人として、その作品全体を考えてあえて、あの「市川崑の金田一耕助」にしたのであった。そして、原作を深く愛し、理解している市川監督は、当然ながら原作にあるヒューマニズムはそのまま残した。そこに私は勝手に私なりの深く、そして強く感じる思いを抱くのである(http://toridestory.at.webry.info/200608/article_17.html)。

(そのヒューマニズムを描かないと、金田一耕助の魅力がなくなり、作品自体全てなりたたなくのるので当たり前ではあるのだが)


そして、ラストシーン。
石坂浩二は監督から、
>佐清君や珠世さん。それに生き残った犬神家の人に対するお別れや励まし。他にも複雑な思いがあると思うんですが、それらを全部込めて去っていってもらいたいと。

テイクは1回テスト後、2回目でOKだったそうです。
石坂氏は2段階、3段階にわけて表情を変えているつもりだと。
監督いわく、「OK。もうこれ以上の表情はないから」。

私は、オリジナルのラストのが好きです。
しかし、あのラストもあの、古館弁護士のセリフを思うと悪くないというか、アレしかないのかなと思う。

市川監督は、
>前の時には汽車に乗るところで終わる形で、実は僕はあのラストシーンが大好きなんですが。今回は人知れず金田一が去って行く。彼は行き先を誰にも知られたくない。あのラストの表情で、石坂さんに注文したのは二つ。目礼と微笑。いろいろあった犬神家の事件に関わった人への気持ち、最後には微笑が欲しかった。それがあの表情にこめられているんです。石坂さんは、いい微笑をしてくれました。

製作発表時、監督は、「石坂さんには年齢を忘れて風来坊を演じてもらいたい」と言っていた。
やはり、風来坊としてのラストにはビッタリかもしれない。そして私が感じた以上に深い思いが込められたいたのである。
映画感想記事にも記述したがやはりあのセリフが私は深く印象に残る。あの一言が「市川崑の金田一耕助」を表現しているように思う。

「あの人はまるで天からきた人のようだな・・・」




画像




このあと、購入してまだ目を通していない、石坂浩二著「金田一です」を読もうと思っている。
また思うところがあるであろう・・・










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