「冬の華」  ~哀愁に満ちた男の性分(サガ)

『そうするより他、しょうがねぇと思ったんだ。

 何とか、見逃しちゃくれねぇか・・・、おめえとは長ぇつきあいじゃねえか、
  ガキがいるんだ・・・。』





砂浜にしゃがみこむ、2人の男。
加納秀次と松岡。


秀次は無言で松岡の話を聞いている。



少し離れたところで、松岡の幼い娘、洋子が秀次の舎弟の南と遊んでいる。

立ち上がり、その場を離れようとする松岡、秀次が立ち上がり、ドスを抜いて松岡に突き立てる。

関東の暴力団・東竜会の幹部の2人、松岡は敵対する関西の組織と手をくまなければ、組はつぶされるとして、組を関西に売ろうとした。東竜会の会長は、関西と組むことは断固反対の考えも持ち主。普段は寡黙でおとなしい男だが、実は人斬りと恐れられ、律儀な忠誠心をもち、舎弟分からも慕われ、兄弟分からも一目おかれている秀は、それを阻止すべく、裏切り者を自らヤリに行った・・・・。






「冬の華」   1978年  東映


監督 降旗康男
脚本 倉本 聰

主演 高倉 健



東映東京の作品だが、非常にいい。
初めて鑑賞した時は、衝撃をうけました。
脇の俳優人も今考えるとかなり豪華、そして皆、若い。

たしかにクサイです、まさに映画です、しかし、そこはへんにリアリティなど求めずに、素直にこの設定を、映画を、この内容を楽しむべきではないだろうか。

この手の内容を素直にみれることが・・・、ただ、作風には好き嫌いがあるのでどうしようもないが、私は素直に楽しめる目がいまだからこそ必要な気がする・・・。

とにかく、脇を固める俳優人、とくに男達がいい、中でも秀次の舎弟たちがカッコいい。

まず、冒頭の上記のシーン。兄弟分の松岡を演じるのが池部良、非常に贅沢な起用である。
秀治が一番信頼している舎弟、南を田中邦衛、その南の子分、武田に三浦洋一、会長を藤田進、本家の会長付きの若衆・立花に夏八木勲、会長のカタギの息子に、北大路欣也 、秀次の舎弟達に、峰岸徹、寺田濃、小林稔侍。
組の幹部等に小池朝男、小林亜星、今井健二、天津敏などなど。
また、関西組織の人間の岡田真澄、彼がブランデーのミルク割りを飲んでいるのが妙に印象的、インテリの役でね。

さらには成長した松岡の娘に、池上季実子、そして、街の女に倍賞美津子。秀次の父親に大滝秀次。


そして、なにより、加納の秀次演じる、健さん。
その健さんの魅力を引き出すべく、倉本聰が書き下ろしたオリジナル脚本。

健さんがいい。
そして、倉本のセリフのひとつひとつが実にいい。

女々しくも思える、自らが殺した松岡の娘への想い、逢いたさ・・・、しかし名乗り出られない自責の念・・・、その葛藤する想い。


出所後はじめて、南と中華街のなじみの店で会食するシーン、

『逢うの、楽しみにしてますよ、例の松岡の・・・。』

『帰ってくるって言ったのか。』

『いけなかったっすか・・・。』


秀はブラジルにいるおじさんということになっており、彼女に様々な仕送りをしたきたのである。


『いいお嬢さんになりましたよ、逢われたらどうですか。』

『殺した人の娘さんに逢えるかよ・・・。』


南が逢うセッティングをよかったらすると話つづける中、秀治は、その葛藤する想いをめぐらす。そして、その想いを自ら払拭すように、言葉を吐く、

『最近、賭場は断ってるのか・・・。』


組員でありながら、時代の流れを察知し、南モータースを経営する南は、その秀次の発言に一瞬言葉を失う・・・。



それに15年振りにでてきた娑婆、その時代の変化が彼を襲う・・・。
会長を始め、他の兄弟分達も今は・・・・。
会長は絵画に、特にシャガールに狂っていた。秀次への出所祝いも画であった・・・。
それでありながら、一面ではあいも変わらずの状況もあった。
関西の組織が関東に進出してきており、そこに大物政治家等も加わり、関東関西の大同団結の話が浮上していた。しかし、団結は上辺で実際は関西の傘下に入るのが実情であった。会長はそれには断固反対、しかし、組の幹部連中の中には関西と手を組んだ方が楽だと考える者、つまり会長を批判する者も存在した。
そう、状況は15年前と、松岡がとった行動と同じことをする奴が影でいるのである・・・・。

会長は言う、

『秀、もうキッタハッタの時代じゃねえぜぇ。』


自分の時代じゃない、足を洗おうかと考える始める秀次。そして、洋子に真実をはなすべきではないのかとも考える・・・・。


そんな中、挑発を続ける関西の組織と、夜のクラブでマイクの取り合いが原因で衝突が起こる。小林亜星演じる幹部の為に、子分のひとりが関西の奴を刺殺したのである・・・。

幹部連中が集まる、幹部の中井が口をひらく、

『マイクの奪い合いで戦争なんて、シャレにならんぞ・・・。』


大物政治家も仲介に入り、緊迫する中、小池朝男演じる幹部、山辺に電話がはいる。戻った山辺はニコニコしながら戻ってきた、

『参ったぜ。』

『どうしました?』子分の1人が尋ねる。

『うちのガキ、慶応に受かりやがった。参ったね~。』


ひとり席をたち、街へでる秀次。向かった先は洋子の学校・・・・。
洋子の姿を車の中から、声をかけることもなく、ただ見つめる秀次。


大物政治家が介入し、仲介をすすめられた。そこへ同行するよう会長から言われた秀次。
料亭での話し合いの結果、会長は大同団結こそつっぱねたものの、お気に入りのシャガールの画を献上することになってしまう。
その帰り、本家付きの若衆、夏八木勲演じる立花と2人、バーで飲む秀次。
そこで立花は天津敏演じる中井の叔父貴が関西とあっている雰囲気を感じたと秀次に言う。中井を疑う立花に秀次は言う、

『立花、やめなよ・・・。相手は仮にも叔父貴分だろ・・・、それにあの人は一本通ってるんだ。会長を裏切ったりはしないよ・・・。』


きな臭い状況になる中、足を洗うことを真剣に考え始める秀次、そんな中での会長との港でのシーン、

会長は北大路欣也演じる息子に、何故各幹部連中に預かりの身になっている秀次の舎弟達を彼の元に戻して、事務所を構えてやらないんだと叱られたのである。そしてさらに秀次にいった。

『あいつに言わせると、おめえと南だけが唯一信用がおけるって言うんだ。
どうだ、一家をはる気あるか?』

『実はおやっさん、迷ってるんですよ・・・。』

『足を洗おうかと思ってんだろう』

『はいっ。』

『そんな気がしたよ、チャンスかもしれねえなぁ。横浜もどうもキナくせえし、昔のようにはいかねえし・・・・。』


会長が秀次の思いを一番わかっていた・・・。

そして、自分がもし死んだら組のことはどうなろうと後のことはかまわねぇ、関西と組もうが、戦争しようが、ただそれに倅を巻き込まんでくれと頼む会長。

『あいつは血の気が多すぎる、だが、おめえの言うことだけはあいつはきく。たのんだぜぇ』

更に続ける、

『キッタハッタはもうゴメンだぜ。画でもみてんのが一番いいや。
秀、シャガールってのはいいぜ、特に油絵はよぉ、俺りゃアレだけは惚れてたんだぁ・・・、銭金じゃねえよ・・・・、シャガールはいいなぁ・・・』



そんな中、会長はシャガールのデモのがあると画商に呼び出され殺害されてしまう、関西のワナであった・・・・。

相変わらず洋子へ逢いたさを、葛藤をかかえる秀次におやっさんの死が南より知らされる。
会長の葬儀を終えた秀次は父親を訪れる、そして男と飛び出してしまった母親の死を知らされる。そして、その夜、大滝秀治演じる父親が秀次に言う、

『そろそろ、足洗えねのか・・・。』



自分の中で、時代の終わりを感じた秀次、足を洗うことを決め、南にその思いを話す・・・。



洋子へ想いを、いいたくとも言い出せないその健さんが、イラツキながらも見入ってしまう。

洋子の寮へ電話をかけるが、無言できってしまう秀次。その想いはますます・・・。
南モータースで洋子と偶然あってしまう洋子と秀次、彼女は秀次を叔父さまではないかと思いまじめる。その夜、南との食事の場面で、秀次がつぶやく、

『どうしてかなぁ。』

『何がですか?』

『逢ったら、そればっかり考えていたよ・・・、出たら一緒に食事しよう・・・、何よりも真っ先に逢いにいこうって・・・・、どうして・・・、逢えるなんて、思ってたのかなぁ・・・・』






倉本の脚本が、セリフがやはり、いい。
先述の通り、かなり映画的ではあるが、その登場人物たち、話の運び、洋子への逢いたさが深まると同時に、秀次に、彼に、現実から、横浜から逃げ出してしまいたい事実ばかりが判明していく。
父親との再会するシーン、そして、街の女、倍賞美津子とのカラミもいい。
さらには洋子と武田のこと、自分のかつての女のこと・・・・。秀次の心は固まってゆく・・・。


そして降旗の画が、とくにアパートでのシーンの画が、その構図といい、カラーでありながらものモノトーンに近いその画、実にシンプルでおとなしい画が、その空間が、健さんの、秀次の虚しさを表現し、その寡黙さと苦悩を、心の葛藤をさらに引き立てる。


相変わらず寡黙な健さん、その心の内は・・・、様々なことが彼にふりかかり実は・・・。しかし、男高倉は、その思いを決して人には言わない・・・。
しかし、ある晩、関西の連中に因縁をつけられた秀次は関西の幹部をボコボコにのしてしまうE・・。
関西の連中が血眼で秀次を捜す中、今はカタギになった小林稔侍演じる元舎弟の小料理屋でひとり酒をのんでいた。そこへ峰岸、三浦洋一などが集まり、無言で健さんのわきに座る。
関西の連中が嗅ぎつけ、一荒れしそうな所へ小池朝男演じる幹部・山辺の元へ預かりの身になっている寺田濃演じる舎弟のタケがきて、その場はおさまる。
峰岸が言う、

『たまげたな、おまえいつから、そんな顔になったんだ、山辺の叔父貴は関西嫌いだと思ってたけど、いつの間にそんな付き合いができるようになってたんだ。』

タケは秀次に顔をよせ、

『兄貴、いつ俺たちをひきとってくれるんです、山辺の叔父貴に、いつまで俺は預けられぱなっしになってるんです・・・、俺は、兄貴につきたいんです、けど山辺組の預かりの身になっている以上・・・・俺は・・・・』

頭を抱えるタケ・・・・。



舎弟達の想いとは逆に秀次は足をあらうことに心を決める。
彼は自分を分かっているのである、所詮自分は一家をはる器でないことを、そしてこの秀次の想いをおやっさんも分かっていたのだろう・・・・。

タケの告発で山辺が裏切りものであることが判明する、タケは自分の運命を覚悟する・・・。
そして、山辺は会長の息子、若までもワナにはめ殺害しようとしていた。それを知った秀次は・・・・。


会長に息子を頼むと言われていた秀次、彼は若をみすみす殺させるわけにはいかなかった。そして、おやじを裏切った山辺を許せなかった。
彼なりのケジメを周りにつけ、自分に関わった人間たちのさらなる真実を知り、再び、裏切り者を殺ることをきめる秀次。

彼をとりまく状況、いや、彼自身がやはり所詮は鉄砲玉。
会長に信頼され、若に信頼され、舎弟達に慕われながらも、所詮は、その気質は・・・。
それは彼自身が一番知っている事実、抜けたいが、ぬけられない、結局は自分がいくしかない・・・・・、、哀しい性分・・・・。



実にいい、そのう、ツボをつく展開なんですねぇ。

クロード・チアリのギターの音色が、哀愁を帯びたその音色が、寡黙な男の苦悩とまさに哀愁を表し、チャイコフスキーのピアノ協奏曲1番がまたいいアクセントになっている。


倉本聰はこの脚本を書き上げ、健さんに自ら渡したそうです。目の前で脚本を読む健さん、読み終えた健さんは、一言言ったそうです。

『まいったっスねぇ。』

その歳、倉本聰は健さんのその一言が一番嬉しい出来事だったそうです。





名曲喫茶で最後の珈琲を飲み、思いを巡らす秀次、そこへ洋子が、目の前にたちすくんでいる。
『叔父さま、叔父さまでしょう。』

『何の話ですか・・・・。』

『お嬢さん、何かのまちがいでしょう・・・・。』





そして、あの、ラストへ向かう・・・。





山辺に秀次が言う。

『若は行かれなくなったそうですよ。』



山辺が言う、


『そうするより、しょうがねぇと思ったんだ。

 何とか、見逃しちゃくれねぇか・・・、おめえとは長ぇつきあいじゃねえか、
  ガキがいるんだ・・・。』





遠い15年前の出来事が鮮明に頭に浮かびあがる中、秀次はあの日と同じ行動をとる・・・。









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ただ、映画の内容を、セリフを書き綴っているだけですね~、感想でもなんでもない。
なんていうんでしょう、うまく表現できないんですよ。うまく書けないんです。ただ感じるです。ただ、いいんです。
いいシーン、いいセリフが溢れている。

哀しいけど、いい、カッコいいんですね。
結局はダメな、ダメな男なんですよ、健さん。そのダメというのは、哀しい性分、生き様がね。
舎弟達をひきとってやることもできない、所詮はいい歳をして鉄砲玉なんですよ。
周りからは頼られ、慕われながらも、昔気質な律儀で、自分に嘘のつけない、不器用にしか生きられない男・・・・。
時代に合わせて、自分を変えようとするが、変えられない。

しかし、それがいい。かせられた宿命、哀しい性分と、背負い積み重なっていく哀しみ、その耐える、苦悩する寡黙な姿、う~んやはり、健さんの為の、本、映画ですね。

余談ですが、私はこの映画をみて、ツイードのヘリボーンのジャケットを買い、トーストにジャムをぬり、そして大きな牛乳瓶を探したものです。マネをしようとして。

そして、当然、鑑賞し終えてこう思いました、


『まいったっスねぇ、倉本聰、そして健さん・・・』









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    Excerpt: 降旗監督/高倉健主演の作品はたくさんありますありますが、この作品が一番すきです。 倉本聰の脚本良く 、クロードチアリの音楽が全体を 物悲しいものにしています。 そしてなんと言っても、主人公、加納の魅力.. Weblog: 今日のおもしろ映画館 racked: 2007-12-08 02:28