「八つ墓村」 本筋と側面 ~竜のあぎとに秘められた愛・・・、辰弥出生の真相・・・。(訂正追記)

「八つ墓村」の原作を今読み終えた。

前回私が記述した記事、『「八つ墓村」 本筋と側面 鶴子の深き愛~辰弥、その名の由来』(http://toridestory.at.webry.info/200704/article_10.html)には間違った点が多々あった。
つまり私は稲垣版が原作に忠実であろうと想像のもとに市川版を批判してしまったのである。これは大変失礼なことをした。お詫びする次第である。
しかし、原作にある側面が不足している点(これはどの映像作品にもいえる点だが)、これは間違いではなく、核とした部分に不満があるのは今も変わらない。
そして、非常に不本意ながら、稲垣版と比較すると物足りなさを感じる点、これも変わらない・・・。


ここで、今回は稲垣版と原作についてを中心に語ってみる。
まず、相違点。
私は勝手に稲垣版は細かな点は別にして、原作に忠実であろうと想像していたのだが、大筋ではイイ線をいっている。かなり忠実には描いている。しかし、やはり当然ながら相違点はけっこう存在した。主な稲垣版と原作の相違点をあげる。

・“里村典子の存在”原作ではヒロイン的人物だが、稲垣版では存在しない。市川版では登場するが、原作ほどの重要な人物になっていない。
・“辰也の名の由来”これも原作には書かれていない。
・“亀井陽一が誰の子孫だったか”原作にはない。
・“最終的に美也子を含め何人死んだのかという点”これも原作にはない。
・“麻呂尾寺の長英さんが知る秘密、それにまつわる事柄”原作では最後に驚愕の事実が発覚するが、稲垣版にはない。
・“辰也の身体の傷”稲垣版には描かれない。
・“久弥と春代(厳密にはその他にも)が辰也との対面時に確信したある事実”これも原作では春代が後にはっきりセリフでいうが、稲垣版ではそのせりふはない。この点に関して、私は見方があさかった。どうも稲垣版の春代の思いに違和感を感じていたのだが、実は春代と久弥が気がついていたとの点に私は気がつかなかった。それを思うと違和感は消える。
・“金田一耕助の雇い主・その村での滞在先”
こまかな点ではまだあるが、主な点ではこんなとこか。

ここで市川版とも比較してみる。稲垣版のが原作に近い点が多々ある。
・“尼子の落ち武者が黄金三千両と共に落ちのびて来た点”市川版では黄金の話は存在しな  い。
・“美也子と慎太郎の描写”これも稲垣版の描き方が原作通りである。市川版では2人が、特  に美也子が慎太郎に想いをよせているのをハッキリと描写している。
・“詳細は違う点があるが、辰也が宝を手にする点”市川版では宝自体、黄金自体が上記の   通り存在しない。
・“美也子の最期そして、金田一耕助が対峙する点”市川版では春代に小指をかまれた点が  全く生きていない。
・“田治見家の離れの構造”鍾乳洞への抜け穴がある位置が市川版では違っている。
・“春代の最期の場所”
・“クジ殺人及び登場人物の多さ”市川版はクジ殺人を描いておらず、対になる登場人物が当  然全て描かれていない。
その他まだあるが、ざっと思いつくところはこちらもこんなとこか。


私は原作を読み返して、あらためてショックをうけた。横溝ファンの方は今さら何を言うとお思いだろうが、その原作の奥深さにである。やはり原作は絶対にこえられない。
原作を読むと、稲垣版でさえ物足りないと感じる。
だが、逆に稲垣版がいいと感じる部分もあった。
一番の点は、鶴子の「愛」の深さの描き方、辰弥の名の由来、そして原作とは違う展開ながら、母から託された地図で最後に辰弥が助かる点など、あれはあれで非常によい描き方で、その内容に非常に惹かれた。そして前回、記事のタイトルにもした。私はこれは絶対に原作にあるものだと思いこんでいた。描かれない部分はあるもののよくまとまっている。
上記のように原作との相違点をあげたが、それでも稲垣版はかなり出来がいいとあらためて感じた。
そして、もう一点あげると、金田一が最後に美也子と対峙するシーン。ここで美也子の自白をとる。原作では事件後、関係者を集めた謎の真相を話す場面で、金田一が回想して語る形式である。ここをあえて稲垣版ではシーンとして描いた。そして美也子の春代によってあたえられた身体の変化もきちんと、うまく描写している。これはやはり稲垣版が金田一をメインにしてえがいていつからこそだと思う。ここは多くの方がそうであるようにかなり評価の高い部分である。

しかし、映像作品の中ではかないいい作品だと思うが、いや、恐らく映像作品の最高峰であると思うが、エピソード的に、そして登場人物的に、原作を読んでしまうとやはり・・・・。再度言うが、原作の厚み、その奥深さに驚くばかりである。



と、ここで前回記事にした内容で全体的な部分でも訂正しなくてはならない点がある。
まず前回の記事で私はこの「八つ墓村」は辰弥が主役であると感じると記述した。これが間違いではないのだが、厳密にはこの言い方は間違いである。感じる、この表現は正しくない。感じるどころではなく、間違いなく辰弥が主役である。
これは原作を読み直して驚いた点なのだが、この「八つ墓村」は、辰弥の一人称で、辰弥の視点で書かれている。つまり辰弥が体験した事を自ら記録し、書き留めたものを横溝正史がなんらかで入手し、発表したという形式をとっている。私は完全に忘れていた。
そして、金田一耕助に関して、たまに村にフラリと村へ来て、その度に事件の謎が解明され進展していくと記述した。これはたまに登場する点はあっているが、それ以外は全くの間違い。他の何かの作品と勘違いしているようである。金田一耕助は、村の西屋とよばれる野村家に滞在している。村にはずっといるのである。そして、彼が事件について自分の意見を言う、つまり解明するのは最後の最後である。
ただ、辰弥の視点で書いているため、当然辰弥の前に姿を表した時にしか登場しない。その為に登場場面はかなり少ない。


辰弥の体験談で、彼の視点で記述してある点。これで主役は辰弥以外なにものでもないのが明確だが、これがこの「八つ墓村」の難しい点。つまり金田一ものでありながら、辰弥視点の為、彼は完全に脇役、側面の人物のひとりなのである。登場的にも金田一耕助は他の作品に比べ格段に出番が少ない。同じく側面の人物である春代や典子のが遙かに出番が多い。つまり辰弥と接している時間が長いのである。

これも前回の記事の訂正だが、私は横溝正史である以上、ミステリーである以上、探偵が登場する以上、話の本筋は謎ときだと記述した。しかし、これは探偵が主役の場合である。たしかにミステリーであり、事件がおきるのだが、それは本筋ではない。他の方がどう思うかは知らない。だが、私はそう思う。
辰弥が主役である以上、話はあくまで辰弥の話なのである。たしかに事件が起こる。話は八つ墓村連続殺人を軸に進む。しかるに本筋は連続殺人か。いや、そうではない。辰弥はそれに巻き込まれるのである。辰弥がいく先々で殺人が起こるのであって、辰弥は直接関与していない。辰弥がみずから行動を起こす部分に殺人事件はない。本筋はあくまでも辰弥が行動をとる部分。しかし、そこにも謎がある。ミステリーであるのだから、それは当然。つまりは田治見家の秘密、そして鍾乳洞の謎。さらには自分の出生の謎である。そしてその過程で母・鶴子の「愛」を知り、春代の「愛」、そして典子の「愛」を知るのである。さらにはもうひとつの深い「愛」も・・・・。
殺人事件は最も重要な側面のひとつなのである。そしてその解明をする金田一耕助も・・・。

さらに前回、私は“鶴子の深き愛”これが核であり、“辰弥の出生の真相、、その名前の由来”その謎ときが本筋であると記述した。これはあくまでも稲垣版の場合であった。これはこれで非常に好きな描き方で良いと思う。非常に惹かれた内容であった。
しかし、原作は違った。核が「愛」であるこは変わらない。しかし、それは複数の「愛」。上記の通り、鶴子の、典子の、春代の、そして・・・・。
ただ鶴子の深き「愛」、これは当然最も重要な部分であり、それが本筋の謎である辰弥の出生の真相につながるのである。
ただ、厳密にいうと謎ではあるが、確証がないので謎ではあるのだが、村人にとってはそうでない部分がある。辰弥にしてもまるっきりの闇の中という謎ではない。鶴子と陽一の仲は村人は知っており、その噂を聞いた要蔵が鶴子を責め、辰弥に傷をおわせる。辰弥は村にはいる前にその噂、過去に出来事について知らされる。そして、陽一を知る村人には辰弥が村にはいった時点で、確証をえたと堂々の確信を得る。ただ、辰弥の視点がかかれている本作は、それが終盤まで辰弥自身には謎となる部分である。

要はこの「八つ墓村」、原作を読み直して私は、その本筋は先述したとおり、田治見家の秘密、そして鍾乳洞の謎。さらには自分の出生の謎、この謎ときが本筋であり、辰弥をとりまく、彼を思う人達の「愛」、そこが核であると感じるし、実際に辰弥はその複数の「愛」に助けられる。そして、もっとも中心とすべきはやはり鶴子の「愛」だと感じる。その「愛」が最後に辰弥に全ての幸せを与える。辰弥が最後に黄金を手にする点、最後に長英から知らされる驚愕の事実とある夜の出来事の真相、典子と結ばれる点、そしてその場所、そして繰り返される細胞の歴史、その執拗。つまりは辰也の出生の真相の確信。やはり“竜のあぎと”に秘められた深い愛が根源にあるように感じる・・・・。


そして、稲垣版と原作での相違点の主な点は先述したが、最大の相違点は稲垣版はやはり金田一耕助をメインにしている点。
稲垣版は屏風に秘められた鶴子の恋文を発見するのは金田一耕助。そして、典子が存在しないのでしょうがないが、美也子と慎太郎のそれぞれの思いをみている側に知らせるのも金田一耕助。美也子との対峙する場面で。
原作では、金田一はまさしくそのヒューマニズムが全開。すべて彼の中では知っており、見抜いていながら、自分の中で確証をもてるまで周りにその手の内を明かさない。それでも途中での久野医師の件や“狐の穴”での行動、長英への掛け合いなど彼の活躍はきちんとある。結局、鍾乳洞から彼を救ったのは金田一耕助と言っていい。そして当然、最後の真相明かし。これが当然あるわけだが、やはり本作ではあくまで重要な側面であると感じる。つまり、連続殺人が側面であるわけだから・・・。

そして、原作では辰也は金田一耕助なしで知る事実が多い。屏風の母の恋文、これは自分で発見し、陽一の写真を手にいれ、自分でその真相を知る。美也子と慎太郎の真の想いも典子によって知らされる。そして、連続殺人の真犯人も、その動機も・・・。

金田一は出ずっぱりでないながらも活躍はしているのだが、辰弥視点の為に、重要な側面の人物になってしまう為に、原作ではその活躍は十分に描かれない。しかし、原作では事件後の真相明かしの場面で実は私は最初から犯人を知っていたと語る。これが何故と、ここがある意味での謎あかしでもあり、大変おもしろいところである。彼のこの事件と関わり合いの真実。この点は非常に興味をひく。そしてもうひとつ事件があったことが浮き彫りになる・・・・。


そして、連続殺人は側面でありながらも、犯人は裏の主役であり、先述のようにこれが一つの軸となる。そこに本筋が絡み、つまり辰弥がまきこまれ非常にうまく話が絡み進んでゆく。

多くの重要な登場人物、そして側面、八つ墓村の名の由来である尼子一族の怨念、要蔵の32人殺し、田治見家に流れる狂気の血、そして田治見家の鍾乳洞に隠された秘密、鍾乳洞の地名の謎、屏風にひめられた謎と愛、クジ殺人、そして鶴子の、春代の、典子の「愛」、美也子と慎太郎の「愛」、そしてもう一つの・・・・。そこにからむ名探偵の行動。これらが非常にうまく絡みあっている。奥が深く、厚みのある原作である。

そして私はやはり、本筋は辰也の出生の真相であると思う。
辰弥は本作で常に心の中に非常に重苦しい、淀んだ不安を持ち続ける。原作は全編にわたりその描写が続く。それは辰弥が多治見家の人間、跡取りだということで。彼にふりかかる出来事の根源は全てそこにある。それにより彼は八つ墓村に呼ばれ、事件に巻き込まれ、村人から憎まれる。そして結局は宝を手にする。しかし、最後その出生の謎が完全なる確証があるわけではないが、それ以上に確信する。そして、その出生の真相によりもっとも驚愕の事実がおきてしまう。連続殺人の動機が崩壊してしまうのである。やはりここがミステリーとしての恐ろしさ、醍醐味である。

恐るべし、横溝正史・・・・。


画像


画像


画像




【訂正追記】

※本筋と側面について、この一つ前の「八つ墓村」の記事

『 「八つ墓村」 本筋と側面 鶴子の深き愛~辰弥、その名の由来』
  (http://toridestory.at.webry.info/200704/article_10.html

の最後で、私は本筋が違うのではとの疑問をもち、そのままこの記事に入ってしまった。
しかし、あとになって、今一度考えるに、やはり、軸となっている八つ墓村連続殺人がやはり、本筋なのである。以前、「手毬唄」について書いた記事での自らの文章を思い出した。

>横溝正史原作で、金田一耕助が登場するからには本筋は当然ミステリーである。
金田一耕助が深い闇を解明していく。そこが本筋で一番のみどころである。
しかし、横溝作品はただの探偵ものではない、様々な本筋に絡む側面が存在する。金田一が謎を解明すればするほど、その側面が浮き彫りになってくる。そこが横溝作品の奥の深さである。
この原作を理解し、映像化している点では市川版を上回る映像作品はない。
つまり、本筋は謎解きであるが、核は側面にある。

この「八つ墓村」の構成の複雑さと辰也視点、辰也が主役であることから、私の想いも混乱をきたしたのである。

やはり、連続殺人が軸ということは、それが本筋であり、辰也出生の真相がもっとも重要な側面になる。そして核、これは記事に書いた通りなのである、竜のあぎとに秘められた愛、つまり鶴子の愛なのである。


そして、この思い出した文章には、もうひとつ重大な衝撃がある。

>原作を理解し、映像化している点では市川版を上回る映像作品はない。

これが・・・・。

市川版「八つ墓村」について、いづれ機会があれば想いを語ってみようと思う・・・・・・




※この「八つ墓村」の本筋と側面についての想いは、

『「八つ墓村」本筋を側面  それを今一度、考える・・・。 』
http://toridestory.at.webry.info/200706/article_4.html

で、再度語っています。





ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのトラックバック